森村誠一(作家)
人格統制法案反対
 教育の統制は人格形成の統制、つまり人格の統制である。学問・教育の自由は 基本的人権の核であり、思想、良心、また信教の自由も学問と教育を踏まえてい る。これを国家権力の統制下に置くという発想は、まさに人間のすべての基本的 自由を圧殺することである。教育、特に高等教育と研究が官僚の鋳型に閉じ込め られたらどうなるか。
 そもそも官僚とは国政に影響力をもつ上級公務員であり、官僚主義とは権力組 織に特有の気風や態度・行動様式、規則と前例に対する執着、権限の墨守、新奇 なものに対する抵抗、創意の欠如、傲慢、秘密主義、権威主義などの代名詞、あ るいは形容詞に用いられている。いかにも官僚が考え出しそうな発想であり、法 案であるが、こんなものの支配下に大学が置かれたらとおもうだけでぞっとす る。法案の提出に際して、官僚的なもっともらしい説明がなされているが、要す るに、官僚による人格統制法案である。
 かつて軍国主義時代、陸士、海兵、その他の軍学校に全国の若い優秀な頭脳を 吸い集め、中等学校以上に配属将校をばらまいて、軍事教育一色に染め上げよう とした時世においてすら、リベラルな大学は生きていた。
 大学が政府の統制下に置かれたとき、民主主義は崩壊すると言われる。民主主 義以前に人格が破壊される。辞書の解釈を見るまでもなく、学問と教育の天敵は 官僚であり、官僚制度である。危険な法案が次々に現われる中、最も危険な法案 が国会をまかり通ろうとしている。いま、日本の学問の府は未曾有の学難ともい うべき危機にさらされている。官僚の首はすげ替えられるが、学問と教育は永遠 である。一過性の官僚のおもいつきによって、永遠の学問と大学教育を歪めては ならない。私はこの法案に絶対反対である。
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